2012年4月20日金曜日

症候性肥満 - MyMed 医療電子教科書


最終更新日:2010.11.01

執筆者: 吉松 博信

概要

 肥満は身体に脂肪が過剰に蓄積した状態である。肥満による合併症がすでに存在するか、またその発症が予想され,医学的管理の必要性があるものを肥満症と定義する。肥満をもたらす基礎疾患の有無によって、明らかな原因がない単純性肥満(原発性肥満)と特定の疾患に起因する症候性肥満(二次性肥満)に分けられる。多くは単純性肥満で肥満の90%以上を占める。

病因

 ホルモン作用の亢進や低下によってエネルギー摂取や消費のバランスが障害される内分泌性肥満、遺伝的要因の異常によりエネルギー代謝調節系が破綻する遺伝性肥満、食行動調節機能を有する視床下部の器質的および機能的異常にもとづく視床下部性肥満、薬物の副作用として生じる薬物性肥満などがある。

病態生理

[病態生理・臨床症状]

内分泌性肥満

Cushing症候群

 副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの過剰分泌がある。高コルチゾール血症のために体幹部に脂肪沈着をきたす中心性肥満がみとめられる。肩甲骨間(野牛肩、buffalo hump)や鎖骨上部などへの脂肪沈着もある。特異的な脂肪沈着の機序は不明だが、コルチゾールによるインスリン抵抗性の発現と高インスリン血症が関与していると考えられる。満月様顔貌、皮膚線条、多毛、座瘡、高血圧、糖尿病などをともなう。コルチゾールなどグルココルチコイドは視床下部において、摂食促進物質であるニューロペプチド-Yに促進性に、また摂食抑制物質であるCRHに抑制性に作用する。このため食欲が増加し、過剰なカロリーを摂取することも肥満発症につながる。

甲状腺機能低下症

 甲状腺ホルモン低下によって体重増加をきたす。体重増加は脂肪蓄積ではなく、体液貯留(粘液水腫)やムコ多糖類の蓄積が原因であるとされる。浮腫性顔貌、皮膚乾燥などをともなう。体重増加は、その程度および発現頻度ともに顕著ではない。

インスリノーマ

 インスリンによる低血糖発作を回避するために過食を生じ、肥満を発症する。高インスリン血症による脂肪蓄積作用も関与する。しかし多くの症例で肥満は顕著ではない。またインスリン自体は中枢神経系で摂食抑制性に働いている。

Polycystic ovary syndrome (PCOS)

 女性で両側卵巣の多嚢胞性腫大、月経異常、多毛、男性化徴候、肥満をともなった症候群で、Stein-Leventhal症候群ともよばれる。同症候群で認められるインスリン抵抗性は肥満を伴わないPCOSにも存在することから、PCOSそのものの発症にインスリン抵抗性や高インスリン血症が関わっていることが示唆される。正常月経の再来には減量やインスリン抵抗性改善薬が有効とされる。


不安の状態を克服する

遺伝性肥満

Prader‐Willi症候群

 肥満、知能障害、性腺機能低下、筋緊張低下を特徴とする症候群である。低身長、特有の顔貌、過食なども特徴的で、肥満は全身性である。15番染色体q11-13における遺伝情報の欠失が原因とされる。2.5万人出生に対し1人の発症頻度で、早期(1-3歳)発症をきたす。過食や性腺機能低下などには視床下部機能異常の関与が考えられることから、視床下部性肥満に分類されることもある。

Bardet‐Biedl症候群 (Laurence‐Moon‐Biedl症候群)

 肥満、知能障害、性腺機能低下、網膜色素変性、多指症を特徴とする症候群である。全身性肥満を呈する。常染色体劣性遺伝で、現在まで6つの遺伝子の関与が報告されている。発症頻度は10万人出生に対し1人である。発症は早期(1-2歳)または幼児期(5-6歳)で、身長は正常か、まれに低身長である。

Alstrom症候群

 肥満、網膜色素変性、神経性難聴、糖尿病、腎症を特徴とするまれな症候群である。肥満は体幹性である。性腺機能低下は男性に認められる。知能は正常で多指症などもない。拡張型心筋症合併の報告がある。常染色体劣性遺伝の単一遺伝子疾患であり、ALMS1遺伝子の変異が認められる。発症は早期(1-5歳)で、身長は正常かまれに低身長である。

Cohen症候群

 肥満、知能障害、筋緊張低下、特徴的顔貌を呈する症候群である。体幹性肥満をきたす。性腺機能は正常または低下している。網膜異常、近視、四肢の関節や骨の異常も認められる。常染色体劣性遺伝と考えられ、COH1遺伝子の変異が報告されている。幼児期(5歳)に発症し、低身長である。

Carpenter症候群

 尖頭多指癒合症ともいわれる。肥満、知能障害、尖塔頭蓋および特徴的顔貌、合指趾症を認める。肥満は体幹から臀部にみとめる。性腺機能低下を認めることもある。常染色体劣性遺伝で、身長は正常である。

Klinefelter症候群 

 男性で性染色体異常(47, XXY)を有し、肥満や性腺機能障害をきたす症候群である。性器発育不全、女性化乳房、類宦官体型などが特徴的である。

β3アドレナリン受容体異常

 β3アドレナリン受容体は脂肪組織に存在し,交感神経系を介する熱産生と脂肪分解に重要な役割を果たしている。このβ3アドレナリン受容体遺伝子のミスセンス変異がヒトでも比較的多く存在することがわかり,肥満症およびその合併症発症との関連が明らかにされている。


tcells &アトピー性皮膚炎

視床下部性肥満

 食行動調節などエネルギー代謝調節機能を有する視床下部の器質的および機能的異常によって生じる肥満を視床下部性肥満と分類する。従来は、満腹中枢として知られる視床下部腹内側核(ventromedial hypothalamic nucleus, VMH) の破壊によって動物に肥満と過食が生じることから、VMHが視床下部性肥満の責任中枢と考えられてきた。しかし肥満遺伝子産物であるレプチンの発見以後、新規の摂食調節ペプチドやその受容体の発見が相次ぎ、視床下部内に食行動調節に関する新たな神経ネットワークが形成されていることが明らかになった。特に豊富にレプチン受容体を有し、各種神経ペプチドを産生している弓状核(arcuate nucleus, ARC)はその中心的役割を担っている。

 視床下部性肥満では食行動調節以外の視床下部機能にも障害が及び、肥満以外の種々の症状を示す。主なものは1)不眠症を含めた睡眠覚醒リズム障害、2)変動体温(poikilothermia)などの体温調節異常、3)内分泌異常がある。また腫瘍などによる頭蓋内圧迫症状としての視野欠損、頭痛などの症状にも注意が必要である。

視床下部の器質的破壊

1) 腫瘍や炎症などによる障害

 頭蓋咽頭腫などの視床下部下垂体腫瘍、外科手術、脳血管障害などにより視床下部の食行動調節中枢が破壊され過食などを生じることで、肥満を発症する。

2) Frohlich症候群

 下垂体腫瘍により肥満や性腺機能不全を生じる症候群である。ゴナドトロピン放出ホルモンの産生が減少しており、下垂体でのLHおよびFSHの産生放出が減少している。

3) Empty sella 症候群

 トルコ鞍の完全または部分的な中空化により生じる。中年以上の経産婦に多いとされる。肥満の他、頭痛や視力障害、無月経などをともなうことも多い。

視床下部機能障害

1) Kleine-Levin症候群

 過食と傾眠発作を繰り返す症候群である。若年男性(10-20歳)に好発する。攻撃性亢進や性行動異常など精神科的症状を示すことが多い。視床下部および他の脳部位の機能異常と考えられる。特に、摂食促進物質であるオレキシンのノックアウトマウスに傾眠発作を認めることから、同症候群に対するオレキシンの関与が注目されている。

2) レプチン欠損

 肥満遺伝子(ob gene)は脂肪蓄積に伴って脂肪組織で特異的に発現が亢進し,レプチンを産生する。レプチンは食行動調節中枢が存在する視床下部に運ばれ、同部のレプチン受容体と結合し、食行動を抑制するとともに、自律神経系を介し、末梢でのエネルギー消費を亢進させる。以上の作用によりレプチンは過剰な脂肪蓄積を防止し、肥満発症に抑制的に働いている。肥満動物モデルであるob/obマウスには、ob geneのナンセンス変異がある。レプチンが欠如するため著しい肥満を示す。ヒトでもレプチン遺伝子異常による肥満発症家系が報告されている。生後まもなく著しい過食をともなう重度の肥満を発症する。性腺機能低下のため二次性徴が障害される。T細胞の異常や易感染性、交感神経系の機能異常なども指摘されている。

3) レプチン受容体欠損


行動療法と不安

 db/dbマウスやZucker fattyラット(fa/fa)ではレプチン受容体異常があり、レプチン作用不全によって肥満を生じる。ヒトでレプチン受容体が欠損した患者はレプチン欠乏患者と類似した症状を呈する。レプチン受容体欠乏患者は生下時体重は正常であるが、生後最初の数ヶ月で著しい過食により急速な体重増加を示す。情動不安定であることが多く、食事をとられると攻撃行動を示したりする。

4) プロオピオメラノコルチン異常

 Pro-opiomelanocortin (POMC)ニューロンは、レプチン受容体を豊富に有する視床下部のARCに存在する。POMCはレプチンにより促進性の制御を受けており、POMC-derived peptideであるα-melanocyte stimulating hormone (MSH)およびその受容体であるmelanocortin 4-receptor (MC4R)を介して、食行動を抑制性に調節している。POMC遺伝子異常を有する小児患者が報告されており、早期に過食をともなう肥満を発症する。POMC異常によるACTHの欠乏と副腎機能異常も認められる。また皮膚のMC1RレベルでのMSH機能異常により、青白い皮膚と赤毛を呈する。

5) メラノコルチン4-受容体異常

 MC4Rは摂食抑制系であるPOMCニューロンや摂食促進系のagouti-related protein含有ニューロンのターゲットというべき受容体である。MC4R欠損マウスは過食と肥満を生じる。ヒトにおいてはMC4R遺伝子のヘテロ接合体異常による肥満は他の単一遺伝子異常によるものと比べ発症頻度が高い。一方、ホモ接合体異常患者は少ない。MC4R異常による肥満の特徴は、筋肉などの除脂肪組織も増加していること、小児期を通じて直線的な成長を示すこと、過食や高インスリン血症を呈することなどである。

6) PC1遺伝子異常

 プロホルモン変換酵素であるprohormone convertase 1 (PC1)はPOMCなどのホルモン前駆体のプロセッシングに関与している。したがってPC1遺伝子異常はメラノコルチン系の機能低下を生じ、肥満を誘発する。ヒトでの報告例では早期発症の重症肥満、糖代謝異常、性腺機能低下、低コルチゾール血症などが観察されている。PC1の異常がプロインスリンや消化管ホルモンに影響し、インスリン低下や小腸の機能異常を生じることもある。

薬物性肥満

グルココルチコイド

 食欲の亢進やインスリン抵抗性の関与など、cushing症候群と同様の機序により肥満を生じる。

向精神薬

 抗うつ薬、特に三環系抗うつ薬で食欲が亢進し肥満を生じる。うつ病は食欲低下をともなうことが多いので、抗うつ薬治療による病態改善の過程で食欲が回復あるいは亢進する。糖尿病患者にうつ病発症が多いこと、うつ病の治療過程で体重増加により糖尿病を発症することなどに注意が必要である。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は体重増加作用は少ない。フェノチアジン誘導体であるクロールプロマジンなどの抗精神病薬の中にも食欲亢進作用を介して肥満を誘発するものがある。


糖尿病治療薬

 SU剤などの経口糖尿病薬やインスリンは、血糖コントロールの改善によって糖尿病による体重減少を回復させる。低血糖による食欲亢進やインスリンの脂肪蓄積作用の観点から、肥満を助長する薬物として上げられることもあるが、臨床上これらの薬物だけで体重が大きく増加することは少ない。インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンの投与で体重が増加することがある。体重変動は浮腫によって生じることが多い。脂肪組織の関与がある場合は、内臓脂肪ではなく皮下脂肪の増加であると考えられる。

検査成績

[検査]

 内分泌性肥満や視床下部性肥満では各種内分泌学的検査、神経学的検査、CT、MRIなどの画像検査が必要となる。遺伝性肥満および遺伝性の視床下部肥満では必要に応じて染色体検査や各種遺伝子の検査を行う。

治療

[治療と予後]

 下垂体や副腎腫瘍など原疾患の治療が必要である。内分泌異常に対してはホルモン補充療法を行なう。肥満自体には単純性肥満症と同様に食事療法、運動療法および行動療法を用いるが、遺伝性肥満など知能障害をともなう症例ではそれらの遂行が困難な場合も多い。

主な著作

1)  Hypothalamic neuronal histamine regulates body weight through the modulation of diurnal feeding rhythm, :Yoshimatsu H, :Nutrition
2)  Hypothalamic neuronal histamine as a target of leptin in feeding behavior, : Yoshimatsu H, Itateyama E, Kondou S, Tajima D, Himeno K, Hidaka S, Kurokawa M, Sakata T, :Diabetes.
3)  Central Control of fever and female body temperature by RANKL/RANK.,  :Hanada R, Leibbrandt A, Hanada T, Kitaoka S, Furuyashiki T, Fujihara H, Trichereau J, Paolino M, Qadri F, Plehm R, Klaere S, Komnenovlc V, Mimata H, Yoshimatsu H, Takahashi N, von Haeseler A, Bader M, Kilic SS, Ueta Y, Pifi C, Narumiya S,Penninger JM, :Nature.
4)  Peripheral,but not central, Administration of adiponectin reduces visceral adiposity and upregulates the expression of uncoupling protein in agouti yellow(Ay/a) obese mice. : Masaki T, Chiba S, Yasuda T, Tsubone T, Kakuma T, Shimomura I, Funahashi T, Matsuzawa Y, Yoshimatsu H.: Diabetes.
5)  Glucagon-like peptide-1 , corticotropin-releasing hormone, and hypothalamic neuronal histamine interact in the leptin-signaling pathway to regulate feeding behavior.,: Gotoh K,  Fukagawa K, Noguchi H, Kakuma T, Sakata T, Yoshimatsu H.:FASEB J.

(MyMedより)推薦図書

1) 武城英明 編集:症例から学ぶ肥満症治療―専門医が教える25のチェックポイント,診断と治療社 2006

2) 岡田正彦 著:人はなぜ太るのか―肥満を科学する (岩波新書),岩波書店 2006

3) 里見英子 著・監修:お酢で糖尿病・高血圧・肥満・コレステロールを治す本 (GEIBUN MOOKS No.721) (GEIBUN MOOKS 721 『はつらつ元気』特選ムック) ,芸文社 2010
 


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